行旅生存人の可逆的国辱アンチテーゼ

こっそり生きた痕跡を遺したい

『穴と棒』

クリスマスの思い出。それは人によっては甘くもあり切なくもあるモノである。私にも人並みに甘い思い出はあるものの、それらの思い出を遥かに凌駕する忘れられない思い出が私にはある。

それは高校卒業後初めてで女性を知らないまま二十歳を迎えた後のクリスマス。

私はいつものように当時最も仲の良かったK君の部屋でその日がクリスマスであることを特に意識することもなくダラダラとした時間を過ごしていた。

 

いつものようにパワプロをやり続ける二人。

数時間経ち、パワプロにも飽き、そろそろ眠りに就く準備をする。彼の部屋には布団が一つしかないのでいつもの様に二人で一緒に同じ布団に入った。

 

 

K君は眠りにつくまでの何とも言えない沈黙をTVをザッピングすることでやり過ごそうとしている。私はK君の部屋にある見飽きたエロ漫画をペラペラと捲って眠気がやってくるのを待つ。

 

 

ここまではなんらいつもと変わりない一日だった。ただ一つ違っていたのは、その日がクリスマスだったということ。

 

 

いつもなら何の変哲も無い映像が流れ続けるはずのTV画面にはその日がクリスマスであることを2人に感じさせる物がそこら中に広がっていた。サンタのカッコをした女性アナウンサー、スタジオにあるクリスマスツリー、トナカイの着ぐるみを着たお笑い芸人。

 

夜中に男臭い部屋にむっさいヤロー2人が1つの布団を共有している。しかもクリスマスに。何となく二人の間に寂しさとも空しさとも言えない微妙な空気が流れる。この不思議な空気に耐えられずに先に口を開いたのは私だった。

 

「なあ、セックスてどんなんなん?」

 

しばらくの間、また沈黙してK君は応えた。

 

「うーん、口では説明出来へんな」

 

そこからまた無言のまま時間が過ぎる。

その時、自分でも思ってもみない言葉が私の口から飛び出した。

 

「俺、今なら何でも出来る気がするねん。入れてみていい?」

 

おそらく、溜まりに溜まったリビドーによる恐ろしいまでの万能感。それが私にその言葉を言わせたのだろう。すでに私は布団の中で全裸になっていた。ついに20歳にして行き場を失った私のリビドーは本来向かう筈ではなかった方向へと軌道をズラして大きく前進しようとしていたのだ。

 

K君も私の鬼気迫る雰囲気に気圧されたのか何も言わずに全裸になっていた。

 

私の股間も様々な感情が綯い交ぜになってどうしようもなく隆起していた。

 

普通の神経の人間にとっては、およそこの世の美という感覚からは遠く懸け離れた位置に存在するであろうK君の肛門。もう止まらない状態にある私には女性器も肛門も関係なかった。穴と棒。その瞬間は2人は人間ではなく単なる穴と棒であり、穴は入れられるためだけに存在し、棒は入れるためだけに存在していた。

 

そしてまさに入れようかというその瞬間。

 

「ゴメン!やっぱムリ!!」

 

K君はそう一言言って私の体を払い除けた。そのままその後、お互いに一言も言葉を交わすことなく、K君は眠りに就いた。振り上げた拳(この場合はおっ起てたチンチンだが・・・)を下ろせなくなった私はギリギリで踏み止まったある種の安堵感と何とも言えない喪失感を拭う為に自らの手でそれを慰めた後に床へと就いた。拭えない何かを残したまま・・・・。

 

7年経った今尚、その思いは拭えていない。

 

こんなクリスマスの思い出、あると思います。